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視覚障がいをもつ青木さんの地方出張をみんなで振り返ってみた
RESEARCHER : SUDA
私が取材してきました!
パレンテでヘルスキーパーとして働く青木隆典さん。網膜色素変性症という難病により20代から徐々に視力が下がり、40歳から白杖を持つようになりました。
普段は電車で40分ほどかけて出勤していますが、ときには地方に出張することも。
新幹線に乗ったり、コンビニに立ち寄ったり、ホテルにチェックインしたり、慣れない場所でどんな景色を感じながら、どんなふうに移動をしているのでしょうか。
今回はとある地方出張の様子を青木さんにアクションカメラで撮影してもらいました。そして、その貴重な映像をパレンテの社員5人と見返しながら、ざっくばらんに話していきます!
座談会の参加者 MEMBER
タカノザワ
(AD Marketing Dept.)
オオヌキ
(Product Dept.)
青木 隆典
(Health keeper)
フジワラ
(Creative Dept.)
フカセ
(Creative Dept.)
スダ
(Creative Dept.)
出張初日!出発から雨…傘を差しながら慎重に最寄駅へ

スダ:青木さん、出張お疲れ様でした!早速撮ってもらった動画を見ていきましょう。最初は出張先に向かう道中ということで、自宅から最寄り駅までの移動ですが、あいにくの雨ですね…。

青木:そうですね。雨の日は白杖をつきながら傘も差さなければならないので大変です。私たち視覚障がい者は街から聞こえてくるさまざまな音を頼りにして歩いています。雨降りで傘を差していると雨音で周囲の音が聞き取りづらくなるので、いつも以上に注意が必要なんです。

タカノザワ:この後晴れるといいですね。でも、雨降りの割に足取りは意外と軽く見えますね。
青木:自宅から最寄駅までの道は何度も歩いて通い慣れているので、点字がない場所でも白線や縁石を頼りに歩くなど、対策ができています。でも急いでいるときに突然方向がわからなくなってしまい、自宅の前で迷子になったこともありますが…。

フジワラ:白杖で路面を叩きながら歩いているシーンがありましたね。これは何をしていたんですか?
青木:どんな道を歩くときも、安全を確保するうえで、基本的に「端」を意識しておきたいという気持ちがあります。白線や縁石など、端を示す目印があればよいですが、目印がない場合、音から自分で空間を把握する必要があります。路面を白杖で叩いたときの反響具合から自分が今いる場所空間の広さや、どちらが壁側なのか…つまり、端なのかといったことを把握しています。
SUDA’s memo
どんな道を歩くときも「端」を意識している
タカノザワ:最寄り駅に続く大通りもスムーズに曲がれていますね。
青木:大通りに出る手前で道の端にポールがあるので、そこに触れてから右に曲がるというルールにしています。目印を決めていなかったときはどこで曲がればいいかわからなくて、気付いたら道の真ん中まで出てしまっていたという危険なこともありました。
駅構内から新幹線へ乗車!
スダ:東京駅に到着して、ここからいよいよ新幹線ですね。
青木:そうですね。最寄り駅から東京駅までは何度も歩き慣れたルートなので、迷わず到着できました。新幹線に乗るときは改札から駅員さんに介助をお願いするので、出発時間の30分前には駅に到着できるようにしています。

オオヌキ:複数名の駅員さんが案内していますが、人によって対応が違って面白いですね!例えば「あと5メートルくらいで下りエスカレーターです」と丁寧に教えてくれる人もいる。
青木:そうですね、本当にたくさんの方の力を借りています。

フカセ:もし私が視覚障がい者の方の介助をする立場になったとき、どんなところに気をつければいいですか?
青木:私のように白杖を持っている人が道や駅の構内で立ち尽くしていたり、ぐるぐる体の向きを変えて何かを探しているような場合は、道に迷っている可能性があります。白杖を両手で上に掲げるのがSOSのサインですが、なかなかそれをやる勇気のある人はいないでしょう。自分で歩いている人に対して強引に介助をする必要はまったくありませんが、動きの止まっている人がいたら一声かけてもらえると嬉しいです。
道を案内してもらうときは、肩や手を掴ませてもらえると歩きやすいです。先に歩いてもらって、階段やエスカレーターを使うときは「上りの階段です・下のエスカレーターです」と一言教えてもらえると準備ができるので助かります。介助をするときにすごく気を遣ってゆっくり歩いてくれる方もいますが、いつも通りのペースでも構いません。
SUDA’s memo
白杖を両手で上に掲げるのがSOSのサイン
スダ:とりあえず、新幹線にも乗れて一安心ですね。駅員さんが青木さんに座席の場所を教えるとき、背もたれを手で触らせてあげていたのがわかりやすくて親切だなと思いました。
青木:確かに背もたれや座面を直接触らせてもらえると自分も安心して座れます。ここからはしばらく新幹線の移動時間を楽しみました。
仕事を終えてコンビニに立ち寄りホテルへ
スダ:新幹線で3時間ほどかけて出張先の駅に到着して無事到着。現地はすっかり晴れていたようでよかったですね!
スダ:そして、次の動画は1日の仕事を終えた青木さんが宿泊先のホテルに向かう様子ですね。
青木:はい、まずは駅の改札を出たところでいつも利用しているコンビニに立ち寄って夕食を購入します。このコンビニは店内が広く店員さんの人数も多いのでお手伝いしてもらいやすく、よくお世話になっています。
タカノザワ:親切な店員さんで、お弁当やお茶を丁寧に選んでくれていますね。他にも見守りながら道を譲ってくれるお客さんの姿も映っています。お会計のシーンで、青木さん、手元で確認をしてお札で支払っていましたが、1,000円札・5,000円札・1万円札はどう見分けているんですか?
青木:5,000円札には折り目をつけておいて、1,000円札と1万円札はそれぞれ財布のポケットを分けることで区別しています。
フジワラ:僕は基本的に普段現金を持ち歩かず、電子決済にしています。青木さんも、電子決済を導入してみてはいかがですか?会計でお札や小銭の受け渡しがなくなるのでとても楽になりそうです。
青木:電子決済、気にはなっていましたが、なかなか使い始められずにいました。でも確かに、利用できる店舗数も拡大しているようだし、試しに一度使ってみてもいいかもしれませんね。ありがとうございます!今度ぜひ、使い方を教えてください!
ホテルにチェックイン!視覚障がい者読み上げアプリを使ってみた
スダ:一日の仕事を終えて、無事にホテルにチェックインした青木さん。部屋では今回初めて使うアプリを試してみたようですね。
青木:ホテルではいつもシャンプー・コンディショナー・ボディソープの違いがわからなくて困るので、今回はBe My Eyesというスマートフォンアプリを使ってみました。スマホのカメラをお風呂場のシャンプー・コンディショナー・ボディソープに近づけると、パッケージに記載されている情報を読みあげてくれました。特に旅先では知らない土地で新しいものに触れる機会も多く、その分戸惑うこともあります。このアプリがあると便利で助かりますね。
SUDA’s memo
Be My Eyes は、視覚障がい者が物を認識し日常の状況に対処できるようにすることを目的としたアプリ
青木さんはBe My AI というカメラ機能を
使って確認を行っていたようです!
出張二日目!朝食で一苦労…
スダ:ここからは二日目ですね。一夜明けて、青木さんがパン屋さんで朝食を食べるシーンを撮ってもらいました。このお店のスタッフさんはどなたも視覚障がい者の対応に慣れていない印象ですね。
青木:まず、私たちは店頭に並ぶとき、自分たちの前に先客がいるかどうかがわかりません。このときも不安に思いながら店の前に行くと、店員さんが声をかけてくれました。
スダ:第三者の視点から見ると、メニューを簡単に説明してあげたり、席まで案内するときに肩を貸したりした方が良いんだなと気づけましたね!とはいえ、慣れていないとなかなかパッと行動には移せないですよね。
オオヌキ:日頃から視覚障がい者の方と接する機会がないと、対応できなくても仕方ないのかもしれないですね。このパン屋の店員さんも、今回少し青木さんと接したことでいろいろなことに気づく機会になったはず。
フカセ:こういうときは「サンドウィッチの袋を開けましょうか?」などの一声はかけた方がいいですか?
青木:僕はそこまで何から何までやってほしいのではなく、適度に放って置いてもらえると嬉しいタイプなのでそれは全く思いませんが、どんなメニューの選択肢があるのかといったところは教えてもらえるとありがたいですね。
SUDA’s memo
介助の範囲は人によるので
まずは情報を正確に伝えるべし
帰宅前のトラブルに救世主登場
スダ:2日目も予定していた仕事を終え、残る動画は1本ですね!あとは新幹線に乗って帰るだけ。でも、在来線で新幹線の駅に到着してから、青木さんの様子がおかしいですね。
青木:いつもは乗り換えのホーム移動も考えて決まった場所に降りられるように電車に乗りますが、この日は何を間違えたのか、いつもとは違う場所に降りてしまいました。私がホーム上で困っていると、1人の男性が声をかけてくれて、新幹線の乗り換え場所まで案内してくれたんです。
フジワラ:介助もスマートでとても上手ですね。最後のトラブルを助けてくれた青年に感謝です!
スダ:青木さん、改めて一泊二日の地方出張、お疲れ様でした!動画のなかに学びがありました。通い慣れたルートは意外と早いテンポで歩いているんですね。その分、ルートを見失ったときに動き方が止まる感じもよくわかりました。私も駅や街で白杖をついて立ち尽くしている人を見かけたら、積極的に声をかけたいと思いました。
青木:結局、人に助けてもらえることが一番助かるんですよね。どれだけ予習しておいても、例えばいつものルートが工事中で通れないだけでその先に進めなくなってしまいます。どんなときに私たちが不自由を感じているのか、今回の動画で少しでも伝わり、皆さんが街中で私と同じような人に出会ったときに、一言を声をかける…そんな優しい社会になると嬉しいですね。
SUDA’s memo
いかがでしたか?
この記事を読んでいるあなたにもきっと
多くの学びや発見があったはず。
視覚障がい者の方と関わる場面で
声掛けのきっかけ、参考になれば
非常にうれしく思います!


青木 隆典Aoki Takanori
網膜色素変性という先天性の疾患により20歳から目が見えなくなる。それを機に盲学校へ通い、あん摩マッサージ指圧師と鍼灸師の国家資格を取得。 現在はパレンテで従業員のヘルスキーパーとして勤務中。三児の父でもあり、ギタリストでもある。
Staff Credit
Text / Photo : Shingo Shimojo
Facilitation : Ayaka Ishida